医療情報室レポート
 

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2003年5月30日
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:チェックしておきたい

厚生労働省の情報

 本年、6月1日より再診料の逓減制廃止が決定されたが、現行の1回目81点を下回るばかりか、2回目74点をも下回る73点となっている。逓減制の廃止については歓迎すべきところではあるが、点数引き下げには変わりはなく、昨年4月の診療報酬改定や10月の高齢者定率負担制度導入に引き続き、我々医療に携わる者にとって厳しい状況は以前変わりはない。
 近年は医療機関の経営を脅かすような改革ばかりが行われ、過去の医療情報室レポートでも特集を行ってきたが、現在は規制緩和における株式会社の医療経営参入や混合診療の導入等の問題が目の前に突きつけられ、医療制度の根本に関わるような議論が引き続き行われている。
 そこで、今回は多少視点を変えて厚生労働省の情報に注目してみたい。現在議論されている問題に厚生労働省がどのような発言や見解を持ってきたか、また、現在問題となっている議論についての状況や今後の展望について特集する。
 

医療制度改革 


 政府は本年3月に2008年度の実現を目指し、医療制度改革の基本方針案として、次の内容を閣議決定している。

 保険者の再編・統合

 被用者保険、国保それぞれについて、各保険者の歴史的経緯や実績を十分尊重しながら、保険者の財政基盤の安定を図るとともに、保険者としての機能を発揮しやすくするため、再編・統合を推進する。再編・統合を進めるに当たっては、都道府県単位を軸とした保険運営について検討する
  

 高齢者医療制度

 個人の自立を基本とした社会連帯による相互扶助の仕組みである社会保険方式を維持する。年金制度の支給開始年齢や介護保険制度の対象年齢との整合性を考慮し、また、一人当たり医療費が高く、国保、被用者保険の制度間で偏在の大きいことから、65歳以上の者を対象とし、75歳以上の後期高齢者と65歳以上75歳未満の前期高齢者のそれぞれの特性に応じた新たな制度とする。これに伴い、老人保健制度及び退職者医療制度は廃止し、医療保険給付全体における公費の割合を維持しつつ、世代間・保険者間の保険料負担の公平化及び制度運営に責任を有する主体の明確化を図る。また、現役世代の負担が過重なものとならないよう、増大する高齢者の医療費の適正化を図る。
  

 診療報酬体系

 診療報酬体系については、(1)医療技術の適正な評価(ドクターフィー的要素)、(2)医療機関のコストや機能等を適切に反映した総合的な評価(ホスピタルフィー的要素)、(3)患者の視点の重視等の基本的な考え方に立って見直しを進める。
  


 ★厚労省の発言・見解

年月日 内   容 ・ 発 言 者

2001.11.30
(閣議後会見)
これからさらに制度改革にどれだけ踏み込むかが問われている。医療制度改革の今後の在り方、診療報酬の基本的な考え方の整理のし直しについても早くやらなければならない。2,3年もかかってやっているようではいけないと思うので、1年くらいの間に方向性をつけないといけない。(坂口厚労相)

2002. 5. 8
(衆議院厚生
労働委員会)
医療(機関)の株式会社化は医療の本質に関わる話であり、国民の皆さん方にもあまりメリットはない。既に株式会社でやっている病院、土地・建物を特定の株式会社から借りてやっている病院もあるが、大々的に株式会社化するとなると、経済効率をさらに追求することになる可能性がある。医療は経済効率と医療効率と両方を見なければならず、経済効率だけを追求することは決して国民の医療のためにならない。(坂口厚労相)

2002. 7. 2
(参議院厚生
労働委員会)
抜本改革の中心は 給付と負担の公平を図る、無駄を省く、医療の質を上げるの3つにつきる。質をあげるため、(財源)をつぎ込まなければならない部分もある。抜本改革をやることが大前提だが、それをやったら財政が楽になるかと言えば、さらに厳しくなることは事実。来年4月に(3割負担を)実施させていただく時に、抜本改革の第一歩を踏み出せるよう示すことが大事ではないか。(坂口厚労相)

2003. 3.28
(閣議後会見)
(閣議決定された基本方針について)大きな骨格は示し得た。その中での財源、割合など具体的なことはこれから詰めていかなければならない。(前期高齢者2割負担の提案は)考え方としては非常に傾聴に値する。また、(前期高齢者の保険者については)国庫を導入するという考え方は取っていないが、今後検討していく。(後期高齢者の保険者については)国保の範疇でお願いするのが最も望ましい。(坂口厚労相)


 ★日医の発言・見解

 日医の青柳俊副会長は、基本方針について、従来から日医が主張していた(1)75歳以上を対象にした独立型の制度を創設し、74歳未満は一般世代と同様、国民健康保険か健康保険に加入(2)保険者の整理・統合を推進(3)質が高く、患者にとって最適の医療を効率的に提供するという視点で診療報酬体系を見直すなどの方針が盛り込まれた点を評価した。
 しかし、医療制度改革の基本方針について、サラリーマンが加入する健康保険組合の整理・統合に向けた道筋が不明確であることに不満感を示している。高齢者医療については、年金生活者の制度設計に十分配慮する必要性を指摘し、65歳から74歳の医療費自己負担を2割とする方向を支持。実施は2008年度とされているが、青柳副会長は「ある程度の方針が決まり、予算面の解決が図られ、法改正ができるという時期がくれば、そこから対応すべきだ」と述べ、前倒し実施を示唆している。
 また、「医療保険制度の仕組みを正面に捉えて議論する場がない」とも述べ、高齢者医療や保険者の統合・再編などについて公開で議論する場を早急に設置する必要性を指摘した。

<日本医師会「JMA PRESS NETWORK」ニュース(2003.4.1)>   

株式会社医療経営参入・混合診療  


 日本医師会及び厚生労働省、さらに自民党医療関係議員からも「命の値付け」「質の低下」「不採算部門(救急・過疎地)切り捨てにつながるため医療分野への株式会社参入に対して反対姿勢を示していたが、本年2月27日、政府の構造改革特別区推進本部は構造改革特区の第2次募集に対して、自由診療の分野に限り株式会社の病院経営参入を認めている。
 株式会社医療経営参入・混合診療の問題について、政府の総合規制改革会議は経済財政諮問会議の中で「規制改革推進のためのアクションプラン」の項目に盛り込み、遅くとも2年以内の実現を目指して6月に答申を取りまとめようとしている。
  

 ★厚労省の発言・見解

年月日 内   容 ・ 発 言 者

2001. 6.12
(閣議後会見)
混合診療を大々的に取り入れていくと、医療の格差が拡大する。国が負担する医療費は抑制されるかもしれないが、個人が負担する医療費は増大する。非常に限界のある話だと思う。(坂口厚労相)

2002.10. 4
(閣議後会見)
医療(機関)の株式会社化は医療の本質に関わる話であり、国民の皆さん方にもあまりメリットはない。既に株式会社でやっている病院、土地・建物を特定の株式会社から借りてやっている病院もあるが、大々的に株式会社化するとなると、経済効率をさらに追求することになる可能性がある。医療は経済効率と医療効率と両方を見なければならず、経済効率だけを追求することは決して国民の医療のためにならない。(坂口厚労相)

2003. 2.26
(省内会見)
株式会社が参入して配当をしてよいとなると、医療法人という傘の中で頑張っている人たちの気持ちが崩れるのではないかと大変心配している。(自由診療に限って株式会社参入が認められたことは)心の底から納得しているわけではない。(坂口厚労相)

2003. 4. 6
(日本医学会総会)
(株式会社参入・混合診療について)戦い抜くしかないと決意している。混合診療、株式会社導入論には真っ向から反対している。しかし、数年後、医療財政が厳しくなった時にこれらの議論をどう切り抜けるかを考えなければならない。(坂口厚労相)


 ★日医の発言・見解

 本年3月30日に開いた代議員会で、小泉首相が推進している医療特区構想に「断固反対する」とした緊急決議を採択している。決議では、国民の健康、身体、生命を市場原理の俎上にさらし、医療の中に豊かな者と豊かでない者との差別を持ち込むことは、「断じて許すことができない」とした。また、医療特区における株式会社の医療への参入や混合診療の容認、外国人医師の診療許可など、「日本の医療制度を根幹から崩壊に導くことは絶対に容認できない」とし、これらを推進しようとする小泉内閣に猛省を促している。

<日本医師会「JMA PRESS NETWORK」ニュース(2003.4.1)>   


 混合診療とは何なのか、その本質を理解しないままの議論は、制度や政策の方向性を誤らせることになる。混合診療の議論は、わが国が1961年に達成した国民皆保険体制の下、保険給付システムの根幹を成す「現物給付制度」のあり方に直結するものである。つまり、現行公的医療保険制度の原理・原則、国の医療保障に対する将来ビジョンにも影響を及ぼす重大な問題であることを認識しなければならない。

<日本医師会医療政策会議(2003.5.21)>

その他の問題  


年月日 内   容 ・ 発 言 者

2002. 2.13
(社会保障審議会)
[転換型介護老人保健施設]
 (療養病床6ヶ月超の)患者は入院ニーズが低く、むしろ老健や特養、ケアハウス、グループホームが適当。特養などの施設を新築するには時間がかかるため、緊急避難的に現在の医療施設内の「療養病棟」を「特例転換型老健施設」にシフトすることが最も現実的。(外口老人保健課長)

2002. 8.30
(就任後会見)
[転換型介護老人保健施設]
 (介護療養型医療施設について)中長期的の課題として特養、老健施設、療養型の施設体系がどうあるべきか、10年後を考えながら、5年目の見直しに向けて今から議論していかなければならない。特養・グループホーム・ケアハウスとそれを取り巻く施設との関係、一方で増え続ける在宅ケアの資源、それらの中で老健や療養型の役割をもう一度議論し直したい。(中村老人保健課長)

2003. 1. 28
(特区提案への回答)
[医療業務への労働者派遣の解禁]
病院・診療所等への労働者派遣を容認することは、チームとして医療を提供する中で、その構成員によるお互いの能力把握や意思疎通が不十分となり、患者の生命、身体に危害が及ぶ恐れがあるため、慎重な検討が必要。今年度中に社会福祉施設等で派遣を解禁する政令改正を行う方向で検討。(厚労省の見解)

2003. 1. 28
(特区提案への回答)
[外国人医師による医療行為の解禁]
わが国の医師免許を有していない者に一般的に医療行為の実施を認めることは、患者の生命・身体の危険を伴うことになるため適当でない。(厚労省の見解)

2003. 4. 5
(日本医学会総会)
[医師臨床研修必修化]
将来的には地域の病院が全て臨床研修病院となり、特定機能病院(大学病院)は高度専門医療の研修を行うという役割分担を進めていく必要がある。(篠崎医政局長)

2003. 5.16
(診療に関する
情報提供検討会)
[個人情報保護法案]
民間医療機関については新規開設を除くほとんどが取扱事業者になる。現在、診療情報の提供についての報告書を取りまとめ、個人情報保護法を踏まえて法制化の部分の表現を整理している。(厚労省の見解)


<医療情報室の目>
今回、厚労省の発言・見解について特集したが、医療制度改革案及び株式会社の医療経営参入については従来からの日医の主張と重なる点も多いが、混合診療の是非に関しては、厚労省の見解は比較的柔軟性を持っていることが伺える。混合診療の解禁は、保険外診療が拡大される可能性を秘め負担能力により享受できる医療サービスが限定されるといった格差を生じ、更に医療費の高騰を招くことが考えられる。
 また、その他の問題に関しても、国際的に高い評価を受けているわが国の医療保険制度を崩壊に導きかねない医療制度改悪案や、医療を受ける側である患者への負担増につながる改悪案には我々地域医師会もさらなる結束を固めて断固として反対の姿勢を貫いていきたい。いずれにしても、今後も各問題に於ける厚労省の発言・見解を注視していく必要があるだろう。医療情報室レポートでは今後も厚労省の情報を追って報告していきたいと考えている。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 長 柄 均・江 頭 啓 介・入 江  尚


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