医療情報室レポート

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2000年10月27日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:診療に関する相談窓口 その3
       会員医療機関の状況
「診療に関する相談窓口」は、日本医師会「診療情報の提供に関する指針」に基づき各医療機関に設置されることとなっております。
本会では、各医療機関における相談・苦情・情報開示の実態調査のため、本年9月に相談窓口設置に関するアンケート調査を実施いたしました。
今回は、会員医療機関における相談窓口の状況についてアンケート結果をお知らせするとともに、日本医師会の取り組みなどを通じ、情報開示の あり方について検証します。

 
アンケート結果

  ○調査客体:1,082件(平成12年9月5日現在会員医療機関)
  ○回答件数:523件(回答率48.3%)
  ○調査内容
    1)「相談窓口」設置の有無
    2)今までの窓口での対応の有無
    3)相談内容(重複回答可)
  ○結 果 1)「相談窓口」設置の有無
  回答 割合
設置している 95 18.2%
設置していない 324 62.0%
検討中 96 18.4%
無回答 1.5%

※設置施設の内訳

  件数 回答施設数中 全施設数中
無床診療所 41 12.6% 5.8%
有診療所 26 19.4% 10.2%
100床未満病院 40.0% 16.7%
100床以上病院 20 46.5% 26.7%

2)「相談窓口」を設置している施設における窓口での対応の有無

  回答 割合
あ る 45 47.4%
な い 48 50.5%
無回答 2.1%

※「相談窓口を設置していない」「設置を検討中」「無回答」
 の医療機関における窓口対応の有無

  設置していない 設置を検討中 無回答
回答 割合 回答 割合 回答 割合
ある 69 21.3% 27 28.1% 62.5%
ない 208 64.2% 51 53.1% 12.5%
無回答 47 14.5% 18 18.1% 25.0%

3)相談内容(重複回答可)

相談内容 回答 割合
医療(診療)内容に関すること 695 22.9%
医療費用に関すること 739 24.3%
医療機関に関すること 411 13.5%
カルテの開示に関すること 23 0.8%
セカンドオピニオン 92 3.0%
健康・疾病に関すること 846 27.9%
その他 230 7.6%

  ○相談窓口を設置している施設に対する追加アンケート
    調査施設:95 回答数:73 回答率:76.8% 1)窓口担当者について(複数回答あり)
  回答 割合
院長 38 45.8%
婦長 10 12.0%
事務長 12 14.5%
※担当者 13 15.7%
ソーシャルワーカー 7.2%
社会福祉士 1.2%
診療録管理士 0%
副院長 3.6%

※担当者内訳
  医事課長・主任、総務課長、事務主任、受付、医療連携室、保健婦

2)カルテ開示に関する相談が寄せられた施設について
   施設数:16 相談件数:23
   回答数:7 回答率:30.4%

3)カルテ開示に関する相談が医療訴訟に発展したケース
   なし

4)具体的内容
  ○「入院料に納得できないのでカルテを見せてほしい」 → 説明の後納得
  ○家族より「入所中の利用者の状況を知りたい」との依頼 → カルテを開示
  ○「治癒が遅いのは手術の失敗ではないか」との申し出 → カルテを開示、その後連絡なし
  ○病状についての相談 → カルテ・検査内容を提示し説明
  ○交通事故に関係する資料提供依頼

日本医師会の取り組み

−苦情・相談受付窓口業務講習会の開催−
  ○講演内容(平成12年9月13日水曜日)
  [法律学概論]
   ・窓口担当者は法的知識など多くの知識を有する必要性がある
  ・患者の苦情には真摯に対応し、苦情から学び診療の場にフィードバックさせる
   ・インフォームドコンセントは法的に要求されているが、インフォームドチョイスは必ずしも求められていない
     ※医師が治療法の順位付けを行い、自分が行いたい治療法を患者に示し、同意してもらうことは法的に問題はない

  [医師賠償責任保険論]
   ・医事紛争発生時には決められた手順を踏んで迅速に行動する
  ・日医医師賠償責任保険が有責・無責に関係なく支払われるような誤解を与える言動をしない
   ・最近の医療訴訟の動向(高額請求・有責逆転判決)によりリスクファイナンスの重要性が示唆される

  [紛争・訴訟予防論]
   ・クレームは患者が当然の期待を裏切られたと感じた際に発生する
  ・声にならないクレームを拾い出し、早い段階で処理することにより紛争・訴訟化を未然に防ぐ
   ・主治医がディレクターとして患者の安全を守るための方向づけを行い、治療を行う専門医と共同で治療計画を立てる
    → 両者が相互牽制しながら治療計画を立てることが患者に安心感を与え、医師への信頼につながる

  [リスクマネジメント概論]
   ・リスクマネジメントとは:予想された結果と現実の結果との相違が起こらないようにしていくこと
   ・リスク・コントロール:事前の対応策(事故防止、紛争・訴訟の拡大防止)の重要性
   ・リスクの把握:インシデント・レポーティング・システム
            (実際に起こった事故や、事故に至らなかったような事例を自発的に報告するシステム)
            オカレンス・レポーティング・システム
            (報告すべき項目を定め、その項目について報告義務を課すシステム)
            オカレンス・スクリーニング・システム
            (予め決めた一定の基準により診療記録や現場の巡回などから事故につながるような事例を探し出す)
   ・リスクマネジャーの養成
  ・医療におけるリスクマネジメントの目的:「医療の質の確保」を通して達成されるべきものである

−医療安全推進者養成講座の開設−
  ○「医療安全推進者」の役割
    @患者と職員の安全対策プランの策定及び推進実務 A医療機関におけるリスクマネジメント
    B医療機関のアカウンタビリティ(説明)に対応するコーディネイト C医療安全推進にかかるモニタリング等
  ○開講予定:来年1月(期間は約1年)

<医療情報室の目>
★アンケートの結果について
 アンケートの結果、「相談窓口」を設置している施設は回答施設の18.2%に過ぎない状況でした。社会からみた場合、期待と 信頼を得るにはまだ十分な数とは言えません。「相談窓口」は患者さんの苦情・相談を早い段階で処理し紛争・訴訟を未然に防 ぐ機関となり得ます。会員各位の前向きな取り組みを是非お願いします。

★カルテ開示について
 現在、政府の法制化専門委員会で個人情報保護基本法の検討がなされており、9月14日、医療関連個人情報の取扱いについ て日医に対するヒアリングが行われました。日医はカルテ開示の法制化については除外規定とするよう要望しています。カル テを含む診療情報の提供については、今回のアンケート結果においても明らかなように、既に各医療機関で積極的に推進され ており、その結果患者さんとの良好な信頼関係が構築されています。自主的に開示を推進し、成果を上げている実状と、医療 における情報の特殊性(開示することが逆に目的に逆行することもあり得る)を考えれば、法制化の必要はないものと考えます。 尚、積極的に診療情報を開示していくためには、開示に耐え得る(見せられる)カルテの記載が必要です。

★リスクマネジメントを考える
 医療におけるリスクマネジメントを考えるとき、「医療の質の確保」が前提とされています。これは言うまでもなく「リスク」 を考えるあまり、診療が消極的になってはならないことを意味します。事故・訴訟を未然に防止するための方法には、報告書 の提出、チェックリストの作成などの他、患者さんへの十分な説明、職員の接遇も含まれます。まず患者さんとの信頼関係を 如何に構築していくかを考えることがリスク・コントロールであると思います。

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医療情報室の最新号は情報番号「0099」、過去のレポートについては「9+レポート番号3桁」です。

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   (事務局担当 百冨 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 江 頭 啓 介・入 江  尚


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